キミがこの手を取ってくれるなら
「奥村の上司の北原です」
そう男は名乗った。
体格が良く、笑顔が爽やかな、いい男だった。
挨拶を返しながらも、二人のことが気になって仕方がない。
「せっかくですから、ご一緒しませんか?」
香織が二人に声をかける。
……何で香織が言うんだよ。
もう帰るから、とやんわり断りを入れて、北原と奈子が一緒に帰って行く。「忙しい時期なんだから……体調悪いんだったらあまり飲まないほうがいいよ。」声をかけられたのは、その
一言だけだった。
こうして香織と一緒に居ることを何にも思われなかったのか、と思ったら、身体がひどくだるくなったような気がした。俺は一体何を……期待してたのか。目の前が一気に暗くなっていく。
「純くん?どうしたの?」
あぁ、今日中に話をつけたいと思っていたのに。
「……香織、ごめ、ん。……ちょっと調子が……悪い」
口にしたら熱が上がって来たのがはっきりと分かった気がした。
結局一人で帰ることができずに、香織はアパートまで付き添ってくれたが、予想通り「放っとけるわけないじゃない。」と部屋まで上がり込んで一晩中側にいた。
抵抗できないもどかしさを抱えながらも、熱にうかされた頭では何も冷静に考えることができなかった。