キミがこの手を取ってくれるなら
「純、お前さぁ……いい加減、はっきりしろよな。」
奏が言ったのは、予想もしない、思いがけない言葉だった。
「ただ側にいてどうにかなると思うか?あいつは頑固で恐ろしく鈍い。傷ついても、自分を守らずにとことん追い詰める。一旦全部受け止めて考えないと気が済まない性格だからな。」
誰のことを言っているのかは分かった。
だけど……それをお前が言うのか?
何年も奈子のことを追い詰めて、振り回して、泣かせてきたお前が。
「お前が……言うんじゃねぇよ。」
その言葉を言うだけで精一杯だった。起き上がることもできない。情けなさが募っていく。
驚いたことに、目の前がぼやけていた。
……情けなくて泣いたのははじめてだった。
「なあ、純。俺は確かに側を離れたし、一回お前たちから逃げたよ。でもちゃんと自分の気持ちと向き合ってからは、逃げずにお前たちとも向き合ってる。気持ちを見失ってもがいてるのはお前らだよ。」
「……言えるもんなら……とっくに言ってんだよ。」
ふざけんな、と思った。どれだけ想ってきたと思ってるんだよ。伝わらないのは分かってんだよ。そこから逃げてる自分にだってとっくに気づいてんだ。
「何で言えないんだよ。そんなんで壊れる関係か?違うだろ?奈緒は傷ついたんだぞ。崎山の言葉を聞いて、倒れるまで悩んだんだよ。無自覚なくせに、奈緒はずっと……お前に頼ってる。お前のことだけを……気にしてるんだよ。」