キミがこの手を取ってくれるなら
それから、私達はまた仲の良い幼なじみに戻った。奏ちゃんが実家に戻る時には遊びに行けるようにもなった。
「Milky Way」にもじゅんたと一緒に通うようになり、志帆さんと陽介さんともすっかり仲良くなった。
今まで離れていたことが嘘みたいに、3人の満ち足りた時間は過ぎていった。
だけど、少し寂しさも感じていた。
たぶん、奏ちゃんが私と『幼なじみ』に戻りたいと望んだことがちょっと寂しかったのだ。
3人だけの関係が終わっていくのを感じながらも、どうしようもなく、ただ日々は過ぎていった。
***
2人が20歳になる年、大学3年生を迎える春を待たずに、奏ちゃんは大学を辞めた。
「やりたいことができたんだ。今までは流されるだけで、何にも目標がなかったからね。」
周囲の驚きをよそに、そう言った奏ちゃんは晴れ晴れとした表情をしていた。
彼は春から隣県の調理師学校へと入るのだ。
私は驚かなかった。
遅かれ早かれ、奏ちゃんがこうすることは分かっていたように思う。
これから先、私は奏ちゃんと同じ道を歩くことはできなくて、奏ちゃんが一緒に歩いていきたいと思っている人の存在に…何となく気づいてしまっていたから。
それでも、もう胸は痛まなかった。
私は『幼なじみ』として見守ることを決めた。
奏ちゃん。見守るから、しあわせになって。
そして、いつか私に正直な心を伝えて欲しい。
そう願いながら。