キミがこの手を取ってくれるなら

2、サムシングボロウ・サムシングニュー


時は流れて…

私は短大を卒業して、地元でタウン誌を編集する会社に入った。
従業員20名ほどの小さな会社なので、仕事の内容は多岐に渡る。私は誌面のコーナーを考えたり、取材をしたりする企画部に配属された。

新入社員は仕事を一通りやるんだよ、と入社してすぐに教育係に言われた通り、毎日コピーや事務に必要な用品を発注するなどの雑務をしたり、パソコンでの紙面の編集やチェックを習ったり、取材に立ち会ったりと、目が回るほど忙しく、帰るとそのままベッドに倒れこむ日々を過ごしていた。


それから1年ほど経った、ある夏の日のこと。

「喜べ、姫。取材だ。」と私は相方の北原さんに声をかけられた。
北原 譲(きたはら ゆずる)さんは私より5つ歳上の26歳。学生の頃はラグビーをしていたので体格がよく、爽やかな笑顔が素敵な体育会系の人だ。身長は、私が見上げないといけないくらい高い。たぶん後ろに回るとすっぽりと隠れることができるだろう。


取材の時は、こうしてコンビを組んで動く。
見た目に落差のある私たちは『編集部の凸凹コンビ』とあまり嬉しくないあだ名を付けられていた。

そして、もう1つ呼ばれ慣れないのが…
「取材は明日だからな。スケジュール確認しておけよ、姫!」

この姫、というあだ名だ。

教育係だった北原さんにこう呼ばれて以来、私の呼び名は姫、でみんなに認識されている。
全然お姫様じゃないのに…なんだかとても恥ずかしい。「何で姫なんですか?」と私が聞いても、みんな「そのまんまじゃない。」としか返してくれない。

なんとなく、高校生の頃から伸ばし続けた髪は腰の辺りまで伸びている。カールでもしていればプリンセスって感じだけど、似合わないのでパーマもかけていなければ、染めてもいない。
どストレートの黒髪だ。

そして、今の私の立場なんて『姫』どころか、小間使いもいいとこだ。
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