キミがこの手を取ってくれるなら
私達の関係は相変わらずだった。
じゅんたは大学を卒業して、小学校の教師になっていた。まだまだ新任のような立場で忙しいはずなのに、こうして何かしら用事を見つけては私の所へやってくる。
ちょっと変わったとこと言えば、じゅんたが一人暮らしをはじめたことと、お互い20歳を過ぎたので、会う所は私の家だけでなく外でお酒を一緒に飲むようになったことだ。
忙しいんだから無理しなくていいよ、と言っても「奈子と会うのが息抜きなんだって。」と目を細めて笑う。そして、ゆっくりと手を伸ばし、いつも「よしよし」という感じで頭を撫でてくれる。
お酒が入ると、いつもの意地悪な表情と言葉は影をひそめて、ちょっとだけじゅんたは優しく、そして甘くなる。
たまに額に触れるじゅんたの手は少しだけ温度が低くて、その冷たさはいつも私の中にすーっと染み込んでいく。
私も、たぶんこれが息抜きになっているし、癒されているのかもしれない。
忙しかったり、余裕が無くなると人恋しくなるし、誰かに甘えたくなる気持ちになるけど、私にはなかなかできない。じゅんたの手はそんな私の気持ちを満たしてくれる。
たぶん、一度触れてしまったら離れがたくなる。きっと、もっともっとと甘えたくてなってしまう。この手に触れてしまえばいいのかもしれないけど、それは躊躇われた。
そんな今の距離はなんだかくすぐったい。
私達は相変わらずなのか、一歩踏み出したいけど、足踏みをしているだけなのか…。
きっと、私達はきっかけを探していて、
それは私の手に委ねられている。
それだけは分かる。