キミがこの手を取ってくれるなら
「片想いが一つ、方が付いたんだ。気持ちは今フリーなんだから、幼なじみくん以外にも少し目を向けてみろ。案外そのほうが進む道が見えてくるもんだよ。お前はまっすぐなところが持ち味だけど、目の前のことしか見ないからな。周りに目を配れ。恋愛も、仕事もそうだ。」
「何か仕事ではずっと頼ってきてましたけど、恋愛相談まですると思ってませんでした。北原さん、神様みたいですね…」
と私が言うと
「当たり前だ。俺が結婚するまでどんぐらいの男達を蹴落としてきたと思ってるんだよ。」
と北原さんが笑いながら言った。
北原さんの奥さんは以前ここで働いていた。
私は一緒に働いたことはなかったのだけど、とても綺麗で素敵な方なので、恋の熾烈な闘いがこの社内で数多く繰り広げれられた…のだろうか。
北原さんは笑いながら「お前が朝からこんな状態だと、気にして仕事が手につかないヤツがけっこういるんだよ。そいつらにも、ちょっとチャンスをくれてやれ。」なんてからかってくる。
「冗談やめてくださいよ。」と返すと、「知らないって恐いな。…俺、会ったことないけど、幼なじみくんのこと好きになれそうだわ。」と言った。
…同じような苦労をしてそうだしなー、と北原さんは小さく呟いたのだが、私の耳には聞こえなかった。
「さ、仕事だ。」
私たちは、企画室へと戻った。
北原さんの言うことは正しいけど、一つだけ違っている。…片想いはまだ、ちゃんとした形では方が付いていない。
でも、終わらせるのは、今じゃない。
こういうところが融通がきかなかったり、頑固だと言われるところかもしれない。