キミがこの手を取ってくれるなら
「…子、奈子!何ぼんやりしてんだよ?」
その声にはっと我に返る。
ずいぶん昔のことを思い出していた。
何もかもこいつのせいだ、と目の前の顔をじろりと睨む。
こんな一生でいちばん不幸な日に、その不幸の原因になった男が現れたのだ。…魔王め。
今日の私は、世界でいちばん機嫌が悪い。
「じゅんたには関係ないでしょ?大体、なんでじゅんたが家でごはん食べてるの?」
「おばさんが朝ごはんまだだったら食べていきなさい、って言ってくれたんだよ。優しいよなぁ。会うなり睨むやつとは大違いだよ。」
…じゅんただって会うなり嫌み言ってるじゃないの!!
じゅんたも奏ちゃんとは大違いだよ。言葉に優しさの欠片もない。
そう反論しようと思ったけど、言葉にはできずに、はーっ、と大げさにため息をついた。そして、私はじゅんたの向かいに腰掛け、無言で朝食を食べ始めた。
まだ、自分の口から「奏ちゃん」という単語を出したくない。
失恋の傷は、ざっくりと深いとこまで切れているみたいで、ふと思い出すと涙が出そうになる。
こんな調子で今日1日乗り切れるのかな…