キミがこの手を取ってくれるなら

「せっかくですから、ご一緒しませんか?」と香織さんが声をかける。

何でこの人が言うんだろう…

何だろう。この人が名乗ってから何かが私の心の中に引っ掛かっている。

黙りこんだ私を見て「すみませんが、もう帰るところだったんです。また機会があれば、ご一緒に。」と北原さんがやんわりと断りを入れてくれた。

「奈子…またな。」帰ろうとする私に声をかけたじゅんたの顔色を見る。…なんだかいつもよりちょっと青いような気がする。

「忙しい時期なんだから…体調悪いんだったらあまり飲まない方がいいよ。」

とだけ言い残し、香織さんに会釈をして私は北原さんの後を追いかけた。

帰り道、私を気にかけてか、やけに北原さんは饒舌だった。「やっと見れたわー。お前の幼なじみくん。カフェの彼を見たときも驚いたけどもう一人もあんなにカッコいいって反則だろ。お前が社内のヤツらに見向きもしないのがよく分かったよ。」

「職場の人は、恋愛の対象にはなりませんよ。」

そう答えた私は、だいぶ酔いが覚めてしまっていた。

「お前、あの2人のそばにいて、だいぶやっかまれたんじゃないのか?」

「…」

「図星か。…さっきの女には気をつけろよー。お前のこと思いっきり意識してたしな。」

「…崎山さんがですか?気のせいじゃないですか?ただの同僚じゃないですか。」

「うわ、怖ぇ。言葉にトゲがあるって。お前も意識してんじゃん。」

…意識?違う。ただ、面白くないだけだ。
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