キミがこの手を取ってくれるなら
私は部屋を飛び出した。
どうして逃げてるんだろ…
そう思っても足は止まらなかった。
階段をかけ下りて、自転車に飛び乗る。
そのまま通りに出ようとした時、じっとこちらを向いている人影が目に入った。
「あ…」
香織さんだった。
「ちょっとだけ、話してもいいかな?」
「…はい。」
話はしたくなかったけど、私は頷く。
「すぐに戻りたいから、手短に済ますわ。」
彼女はスーパーの袋を手に持っていた。たぶん、看病に必要なものを買いに出かけていたのだろう。服装は、昨日と同じものだった。
威圧的な態度も、その目付きも、まるでじゅんたの部屋にいるのが当然だと思ってるようなその口調も気に入らなかった。
香織さんが、私のことを敵視しているのは明らかだった。やがて、彼女は口を開いた。
「純くんのこと、振り回さないで。」
…やっぱり。彼女は、じゅんたのことが好きなんだ。