キミがこの手を取ってくれるなら
2、過去と傷
月曜日、筋肉痛に痛む身体を引きずるようにして出社した。昨日は痛みで家から一歩も出ることができなかった。普段運動をしない私には往復3時間以上の自転車移動は堪えたらしい。
私の部署の企画室は3階だ。小さな会社だから、エレベーターなんて気のきいたものはない。
ため息をつきながら手摺に掴まり、ゆっくりと階段を上ろうとした、その時、
「おはよう姫。…どうした?婆さんみたいになってるぞ。」
北原さんに声をかけられた。挨拶しようと振り返ろうとする。
「おはようござい…あ、痛っ…き、筋肉痛で…」
振り返るのもダメか…次の日に筋肉痛が来るのは若い証拠だっていうけど…運動不足じゃ、それ以前の問題かな??
なんてぐるぐる考えながらうずくまっていると、「しょうがないやつだなー。」とすぐ後ろから北原さんの声が聞こえて、突然目の前の景色が反転した。
「ん?…わあっ!」
北原さんが、私を抱えあげて階段を上りはじめた。
「お、降ろしてくださいっ。…だ、大丈夫ですからっ!」
「いいから落ちるぞ。つかまっとけ。」
…いやいや、 よくないって!姫がお姫様抱っこされて出社なんて、シャレにもならない。しかも上司に!
「せ、せめておんぶで…」
「お前小さいから、こっちのほうが楽なんだよ。ほら、もう着いたぞ。」
私が戸惑っている間にもう3階に着いてしまっていたらしい。さすが元ラガーマン、基礎体力が違う。「ありがとうございました。」と礼を言い、降りようとするけど、離してもらえないままだ。
「…北原さん?」
「さ、朝ミーティングだ。」
そう言うと、私を抱っこしたままミーティングルームへと向かって行く。途中で会った沖田くんが目を丸くして見ていたのが視界の端にちらりと見えた。