キミがこの手を取ってくれるなら
ミーティングルームに入ると、「ちょっと待ってろ。」と北原さんはどこかへ行ってしまった。しばらくして戻ってきたその手には、おしぼりと缶コーヒーが握られていて、ほれ、と渡される。…デジャヴだ。
「目が腫れた時はこうやって治せって教えただろうが。お前、筋肉痛はいいけどひどい顔色だぞ?…調子悪いんじゃないのか?」
確かに良くなかった。土曜日から、喉がつかえたように気持ち悪くなってしまい、昨日もほとんど何も口にすることができなかった。
「溜め込むなって言っただろ。で、何があったんだ?」
そう言われて私はぐっ、と言葉に詰まる。
…私は何がショックで、こんなになってるんだろう?
じゅんたが、香織さんの名前を呼んだから?
香織さんがじゅんたの部屋に入っていたのを知ったから?
香織さんに、過去の傷を広げられたから?
じゅんたが離れていってしまうと思ったから?
考えれば考えるほど、どれも直接の原因ではないような気がしてくる。
「…何があったんでしょうね…」
「はぁ?」
こんなことははじめてだった。
自分の心をどんなに考えても、考えても、違和感だけが広がっていく。
自分で自分が分からない……