キミがこの手を取ってくれるなら

「彼女…香織とはちゃんと別れたつもりだったけど、あいつの中では終わってなかった。4月に赴任してきて、もう一度やり直せないかな、って言われた時点でちゃんと断るべきだった。でも新任の大変さも分かるし、俺を頼りにしてくれてると思うと突き放すこともできなかったんだ。」

「けど、そんな中途半端な俺の気持ちが、結局奈子を傷つけたんだよな。」


「そんなこと…」ないよ、と言おうと思ったけど、それ以上言葉が出て来なかった。


「奏にさ、言われたんだ。いい加減はっきりしろって。自分だって何年も奈子のことを泣かせてきたのにな。勝手なこと言ってんなよ、って腹が立った。風邪引いてなかったら殴ってたかも。起き上がる体力が無くて良かったよ。」

二人がケンカするような事態にはならなかったことに、とりあえず安堵していると、不意に
「なぁ、奈子は俺のこと嫌いか?」と聞かれた。


小さい頃はさんざんからかったし、意地悪したし、嫌われてるかもなー、なんて軽い口調で聞いてくるから「嫌いじゃないよ。」と私も軽い気持ちで返した。

すると、急にじゅんたの表情が変わった。笑顔が消えて、真剣な表情で見つめられる。

「じゃあ、好きか?」

「……」

私は答えることができなかった。
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