キミがこの手を取ってくれるなら
未来へのステップ
1、ひとりじゃない
「奈緒子ちゃん!ほんとうに、ごめん!」
紫ちゃんが、私に手を合わせて謝る。
7月の最後の土曜日、私は「Milky Way」に来ていた。店先には『本日は臨時休業です』と張り紙が貼ってある。
いつの間に常連になっていたのか、紫ちゃんが来ていて…顔を合わせるなりテーブル席に引っ張って行かれ、そこで私は謝り倒されていた。
「あの子の気持ちも分からなくはないけど、今回はほんとにやりすぎよ!」紫ちゃんは、カンカンに怒っていた。
あの子、とは香織さんのことだ。あのしっかりして気の強そうな人を『あの子』呼ばわりする紫ちゃん。癒し系の可愛らしい顔立ちをしていて、ひとりっ子の私にとっては優しいお姉ちゃんといった感じなんだけど、実は相当強者なんじゃないかと思っている。
「紫ちゃんが悪いんじゃないよ。友達だって知らなかったし。それに、香織さんも私と話がしたかっただけじゃないかな。言いたい放題言われてちょっとびっくりしちゃったけど…いろいろと分かったこともあるし、今は気にしてないからね。」
「でも、私なんにも知らずに奈緒子ちゃんを傷つけたもん。入院してたのも知らなかったし…」
と紫ちゃんが申し訳なさそうにまた謝ろうとする。すると、その言葉を遮るように、
「そうだよ紫。お前が悪いんだよ。話をややこしくしたヤツに誰が奈緒が入院したってわざわざ教えるかよ。」
奏ちゃんが容赦なく紫ちゃんの謝罪の言葉をバッサリと切った。
とたんに紫ちゃんの表情が険しくなる。