キミがこの手を取ってくれるなら
「志帆さん、こんな男でいいの?ほんとうに後悔しない?!真っ黒だよ、こいつ。」
他人(ヒト)の婚約者をこいつ呼ばわりしながら、紫ちゃんは志帆さんに訴える。
志帆さんは「それも奏一の魅力じゃないかしら?」と気にする様子もなく言った。
「私だって無駄に年を取って、もう真っ白な乙女ってワケじゃないもの。染めてもらうなら、もう黒しか残ってないわ。」
ぴったりじゃない?そう言ってケラケラと笑った。
志帆さんは私たちの前では大人びた振る舞いをやめて、くだけた調子で話したり、接してくれるようになった。たぶんこれが本来の志帆さんの姿なんだろう。
「そう言えば、今日純くんはどうしたの?」と陽介さんが言った。
その言葉にぴくっ、と身体が反応してしまった。
みんながチラチラと私のほうを見るのが分かって、どんどん顔が赤くなっていく。なんとなく恥ずかしくなって顔を上げられなくなってしまった。
「今日は来られないって言ってた。みんなによろしく言っといてって。あと、また改めてお祝いの言葉を言いに来ますってさ。」と奏ちゃんが答えてくれる。
奏ちゃんと志帆さんの結婚が正式に決まり、今日はお祝いで集まっていたのだ。
来年の7月7日に2人は結婚式を挙げる。