キミがこの手を取ってくれるなら

「なんだ、純くん来ないのか、残念だなぁー。な、姫?」私の耳にそんな、微妙な空気を全く気にしない男の声が聞こえた。


…さっきから疑問に思ってましたが、どうしてあなたがこの場にいるんでしょう?

「北さん、空気読まなすぎ。」陽介さんがククッと笑いながら言う。…ていうか、北さんって呼ばれてるの?!もうそんなに仲良しなの?


空気を読めない男、北原さんはカウンター席から楽しそうにこっちを見てにやにやしている。

北原さんは、以前に取材で訪れたことがきっかけで密かに「Milky Way」に通いつめていたらしく、いつの間にか常連さんになっていた。
だから私が倒れた時に真っ先に「Milky Way」に連絡してくれたんだな、と納得する。

そこは感謝してるけど、何でプライベートな空間まで上司と一緒にいないといけないの…
はぁ、とため息をつきながら北原さんに向かって話す。


「北原さん、何やってるんですか。奥さんもう臨月じゃないですか。さっさと帰って一緒にいてあげてくださいよ。」

「美和ちゃんは、先週から実家に帰ってんの。一人の家は寂しいんだよ。うんざり、って顔しないで相手してくれよ~。」

「なら、余計にいつ『美和ちゃん』から連絡が来てもいいように、ずーっと家で待機しててくださいよ。」

恥ずかしげもなく、自分の妻をちゃん付けで呼び、甘えたような口調で話すこの人は、ほんとに私より5歳も年上なのかな…
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