今、ここであなたに誓わせて
第1章
さようなら、どうか幸せに
今日は、妹の凜花の結婚式。
式場の前で2人並んでバージンロードを歩く練習をする。せーので、歩き始めたがなかなかぎこちない。リハーサルの時から全く息が合わなかったが、まさか本番前になってもこんなに合わないとは。正真正銘の血の繋がった兄妹だというのに、妹の一世一代の晴れ舞台にこれでは情けない。もはや苦笑するしかない俺に、隣で腕を組む妹が感づいたのかこっそり腕をつねられ、今現在目の前のドアの向こうで厳かな式が行われているというのに危うく声が出そうになった。
「ちゃんと合わせてよね」
「分かってるって」
「もう、だからちゃんと練習しようって言ったのに。誰かさんが、長年苦楽を共にした兄妹なんだから息が合わない訳がないとか言うから」
「本番はこれからだろ、大丈夫ばっちり合わせてやるから。兄ちゃんやる時はやる男だろ」
「え?」
「なんだその疑わしい目は?」
スタッフの人が傍らで俺達のやり取りを聞いて、本当に仲の良い兄妹ですね、と静かに笑った。
「そろそろドアが開きますのでゆっくりお進みください」
いざ、本番が差し迫り緊張は頂点へ達する。ここが正念場だ、ここを終えれば今日の俺の仕事の半分はもう終えたようなもの。俺の腕を掴んでいる妹の腕にもきゅっと力が籠り、緊張が伝わってくる。
白いレース越し、少し顔を伏せた妹がぼそっと言った。
「こんなに綺麗になるなんて思わなかったでしょ」
いつもだったら、反論してやるところをさすがにこの時ばかりは口をつむぐ。
「そうだな俺が大事に育ててきたおかげだな」
「……どうしたの、なんか気持ち悪い」
妹が怪訝そうに俺を見上げてそう言った。そしてドアが開くと、陽の光とたくさんの人の視線が一斉に二人に降り注いだ。そしてその中心には、分かりやすい位にカチコチになっている男が妹を待っている。
「……てかあいつ、顔色真っ青だけど」
「ははは、やばいかもね」
「たく、大丈夫かよ」
二人でこそこそ話をして、一呼吸を終えた後俺から一歩足を出して歩き出した。あれ程合わなかった歩調が嘘みたいにスムーズに歩けた。そして、目の前で頼りなさげに微笑む男を前にこの期に及んで心配になる。
それに感づいたのか、その男の手に渡る瞬間、俺の顔を見て妹が微笑んだ。「大丈夫だよ、私が選んだ人だもの」とでも言っているような顔で。
……いつの間にこんなに凛々しくなったものか。
去っていくその横顔は今までに見たことのないものだった。