今、ここであなたに誓わせて

上座にどかっと座った社長におばさんがお盆に載せた缶ビールとコップ、ちょっとしたつまみをさっとテーブルへ置いていく。りんはというとおばさんから離れようとせず、時々ちらっと俺の方を見ては目が合いそうになるとさっとおばさんの影に隠れた。俺はここで一体どうしろというのか。他人の家の食卓という決して居心地が良いとは言えない空間に、俺は一番下座で正座になった。

「お前、ビールは?」
「あ、いや」
「あぁ未成年だったな」
「俺がお前の年の頃にはもう飲んでたけどな」
「お付き合いできずすいません、お注ぎします」

なんで俺、社長にビール注いでるんだろう。早くりんの機嫌を直して連れて帰らないと。


「ただいまー」

そこへセーラー服を着た女の子が帰ってくる。ボブカットのやや釣り目がちなちょっと勝気そうな少女。俺がいることが気に食わないのか、「誰?」と社長に尋ねて不躾にじろじろと見てくる。

「うちの新人だよ」
「なんでここにいるの?」
「一緒にメシ食おうと思って」

居間に通されてから一番のいたたまれなさを感じて、思わずその場に膝立ちになってその少女に頭を下げた。

「すいません、すぐに帰りますので」
「別に構いませんけど」

そう言って階段を上っていった。二階に部屋があるのか足音が居間まで響く。

「ごめんね、あの子亜弓っていうんだけど照れてるだけなの。お年頃だから許してあげて」

おばさんが困ったように笑いながら、居間のテーブルの上に餃子のタネが入ったボールと餃子の皮、それと水の入ったお椀を持ってきた。

「篤司君、餃子の皮包んだことある?」
「いや……」
「皮のね外側半分にこうやって水をつけて、こうやって端から折りたたんでいくの」
「りんもやりたい」
「りんちゃんはおばちゃんと一緒にやろうか」
「うんっ」

おばさんはりんの小さな手を取って、後ろから二人羽織のようにして作っていく。俺はおばさんが作るのを横目で見ながら、言われた通り餃子の皮を包んでいった。

「そうそう、上手。前から思ってたけど元々手先器用よね、覚えも早いし」
「いえ、教えてもらってありがとうございます。今度りんに作ってやれます」
「みて、りんもじょうず?」

そう言って、おばさんがほとんど作った餃子を俺の前に差し出した。

「じょうず、じょうず」

褒めると嬉しそうにもうひとつと手を伸ばした。さっきまでぶーたれていたのに、そんなに餃子が嬉しいのかいつの間にか機嫌が直っている。そこで久しぶりにりんのちゃんと笑った顔を見た気がした。


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