今、ここであなたに誓わせて


「げっ、これ期限今日までじゃん」

テーブルの下に置きっぱなしになっていたGAOのDVD。

「あーあ」

少女漫画を読みながら、横目で残念そうに俺を見る。

「うわー、雪振る前に気付きたかったな」

その日はいつにも増して寒く、朝からちらちら白い雪が降り始めていた。こんなくそ寒い中外に出るのは億劫だがしょうがない。

「車で行くの?」
「それ以外何で行くの」
「自転車で行きなよ」
「お前鬼だな。この雪のくそ寒い中、隣町まで自転車走れってか」

DVDの入った布袋を持って駐車場にある車へ向かうと、ダッフルコートを手にした妹が追いかけてきた。

「どうしたの?」
「私も一緒に行く」
「良いけど、何か借りたいのあるの?」
「別に、気分転換」
「じゃ、ちょっと雪見ながらドライブでもするか?」
「この車、スタッドレスじゃないでしょ?」

スタッドレスという単語が出てきたことに思わず顔を引きつらせながら驚く。しっかりした妹は静かに車の外を眺めていた。休日の妹との貴重な時間、あえて音楽をかけず当たり障りのない会話を振るも、返ってくる返事はそっけない。寂しいものだ、こうやってお兄ちゃん離れしていってしまうのか。ランドセルを卒業して、中学校に上がったら好きな先輩とかできたりするんだろうか。

どんどん大人びていってしまう妹が寂しく、俺はあることを思いついた。


「あ、ブレーキ効かない」

そう言って妹を騙してやろうと思ったのだ。さすがにこれには動揺するだろうと思って。信号は赤、前の車との車間距離はどんどん詰まっていく。

「え?嘘でしょ?」
「いや、マジで」
「え、えっ」

焦る妹をよそに、スリップしないようゆっくりブレーキをかけて車を止める。

「騙されてやんの、びびった?」

そうやっておどけて見せると、妹は涙ぐみながら俺の腕を思い切りワンパンしてきた。

「いってぇな」
「……っ」

それからというものの、妹は完全にへそを曲げてしまい、家に帰って夕食になっても一言も口を聞いてくれなくなってしまった。正直、こういうことは今までに何度かあった。その都度、自分の発言を思い返して一人反省会をするのだが、この多感な時期の妹とどうコミュニケーションを取ったらいいのか未だに要領を得ない。


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