今、ここであなたに誓わせて
夕食に妹の好きな生姜焼きを作ってみたが、それに何の反応もなく黙々と俺と顔を合わせず食べるだけ。
「たく、いい加減機嫌直せよなー。いつまでふてくされてんだか」
「……今日みたいなこと二度としないで」
騙されたのが余程悔しかったようで、ボソっと呟くように言う。
「最近さ、俺お前とどう接していいか分かんないんだけど」
「だからあんな子どもっぽいことしたの?馬鹿じゃないの?」
「お兄ちゃんに馬鹿とは何だ」
「もういい」
そう言って箸をテーブルの上に乱暴に置いた。半分も食べていないのに席を立とうとする。
「待ちなさい」
「お兄ちゃんに私の気持ちなんて分からないんだ」
「分からないよ。お兄ちゃんだってエスパーじゃないんだから」
「……この鈍感!」
そう吐き捨て自分の部屋へ籠ってしまった。乱暴にドアを閉める音が部屋に響く。はぁ、とため息をつきながら妹の残した分を食べる。
翌朝の通勤途中、刺さるような寒さに身を縮こませる。黒いジャンバーのファスナーを上まできっちり上げて、両手をポケットの中へ突っ込んだ。気のせいかマスクをしている人が増えたような気がする。りんの学校でも風邪やらインフルエンザが流行り始める頃だろうと思って、帰りはマスクを買って帰ろうと思いながら職場へ急いだ。
職場へつくと、皆寒そうに事務所の中にある石油ストーブに群がり暖を取っていた。しかし、その中にいつも俺より先にやって来ている後輩や同僚の姿が見えない。結局彼らは始業間近になっても現れず、後からインフルエンザで休みだと先輩に聞かされた。
人手が少ない中なんとか仕事をこなし、事務所近くの現場だったため昼食は事務所に戻って取ることになった。
「流行り始めたなぁ」
「もうこれからの時期はマスク必須ですよ」
「お前昨日あいつらと同じ現場だったろ、もらってねぇか?」
「多分、今のところは」
「熱っぽいと思ったら早めに受診しろよー」
コンビニ弁当を食べながら先輩と他愛のない話をしている時から嫌な予感はしていた。それはその日の仕事終わりには確信へと変わっていった。帰りにクリニックを受診し鼻に綿棒を突っ込まれしっかりインフルエンザと言われ、薬をもらった。帰りの薬局でポカリスエットとマスクを買って。