今、ここであなたに誓わせて
あぁ、自分の役目もこれで終わりだと。今まで本当に長かった。式を終え披露宴を控えている中、そんな感傷に浸りながら、ぽけーっと喫煙所で煙草を吹かす。そうやって一息ついていると、亜弓が息を切らしながらやってきた。
「ちょっと篤司、披露宴始まるよ」
「いいんだよ、俺の仕事はほぼほぼ、終えたようなもんなんだから」
「何言ってんの、ほら行くよ」
「たく、煙草の一本位ゆっくり吸わせてくれよ」
「何!?」
「ナンデモアリマセン」
すでに暗くなった宴会場、一番後ろの家族席にこっそり座った。ちょうど妹のスライドショーが始まったところだった。凜花の赤ん坊の頃の写真が画面いっぱいに映し出されている。まーるい顔に真っ赤な頬。くりくりした目で首を傾けてカメラを覗き込んでいる。
少し歩けるようになった頃、家族で鎌倉に旅行に行った。俺は高校に上がった頃だったろうか、あいつがギャン泣きして散々だったのを覚えてる。七五三の時のピンクのドレス。その家族写真の中で、反抗期真っ只中だった俺は仏頂面をしていて会場から笑いが漏れた。
たくさんある中で厳選したのだろう。その数は俺の倍はある。年の離れた妹は、家の皆から愛されるお姫様だったから。そんな両親や祖父母の姿も、彼女が保育園に入ったあたりからぱったり登場しなくなる。
俺にしがみついたままカメラに見向きもせず背中だけ写った幼稚園の入学式。
俺の手を握りながら下唇を噛んで俯いている小学校の入学式。
仏頂面の中学の入学式。
ちょっと成長して苦笑いの高校の入学式。
そしてやっと笑った高校の卒業式。
全て、一緒に俺が映っている。どれも満面の笑みで。
つい先日のできごとのように鮮明に思い出が蘇ってきて、思わず目頭が熱くなる。あぁ、涙腺が緩くなったもんだ。序盤からこんなんでどうする。
隣にいた亜弓にこっそりハンカチを手渡される。
「ちょっと、大丈夫?」
「……ダメかもしれん」
「はっ?」
「凜花ちゃんの一世一代の晴れ舞台なんだから、ちゃきっとしてよ。情けない」
俺の涙腺を崩壊させた妹のスライドショーの後、今度は新郎のヒストリーが幼少期から紹介し始まる。その数々の写真達からは、裕福な家庭で何不自由なく、愛情豊かな家庭で育てられたことが分かった。順調に良い子に育った彼は、有名国立大学を出て道を違えることなく一流企業に就職した。妹には勿体ない位、良い男だ。
彼を初めて紹介された時、分かりやすく腕を組む俺の前で彼は額に汗を滲ませながら、何も謝る必要はないのに語尾に「すいません」と恐縮していた。頭も良くて仕事も出来るのに、決してそれをひけらかしたりせず、嫌味かという程謙虚な男で、何よりも俺が一番彼に惹かれたのは愛情豊かな家庭に育てられたせいか人間味豊かで温情身に溢れるところだった。そして、妹を一番に想っていてくれていることが何よりもの決め手だった。