今、ここであなたに誓わせて

夜、眠っているとドアの向こうからりんの声がして起こされた。

「……お兄ちゃん生きてる?」
「……生きてるよー」
「ホカリスエットまだあるの?冷たい枕変えてこようか?」
「大丈夫」
「中入ってもいい?ねぇお兄ちゃん、大丈夫?」

そんなに頼りない声だろうか。それとも姿が見えないことが不安なのか、りんの声は心細いものだった。ふと、時間が気になって携帯の時間を確認するとちょうど0時を回った頃だった。

「大丈夫だって」
「でも、」
「それよりももう寝ろって、お兄ちゃんがへばってるからって夜更かししてんなよ」
「……もういいっ!」

ドアの向こうから一人でキレるりん。その大きな怒声に、今日は返す元気もない。何をそんなにぷりぷりしてるのやら、年頃の女の子は本当に分からない。

ふとトイレに行きたくなって部屋を出た。ふらっふらの覚束ない足取り、その上暗くてよく見えないもんだからトイレの帰りにダイニングのテーブルの脚につまずいて盛大にこけた。何やってんだか情けないなー、だけど床が冷たくて気持ちい。

「お兄ちゃん、大丈夫っ?」

ぶつかった物音に起きたのか、りんが部屋から出てきた。俺がぶっ倒れたのを見て駆け寄ってくる。なんだか、今日はりんから一生分心配されているような気がする。

「……大丈夫、こけただけだから」
「熱は?」
「計ってない」
「なんで?」
「計ったって高いの分かってるし」

むくっと起き上がり一瞬ふらっとしてりんに体を支えられる。本当にインフルエンザ位でこんなに弱って情けない。

布団に入ると、りんが体温計を差し出してきた。

「ん」
「何?」
「計って」
「……はい」

有無を言わせない物言いに大人しく従ってそれを脇に差し込んだ。
しばらくすると電子音が鳴って脇から取り出すが、数字が霞んでよく見えない。目を細めていると横からりんにぶんどられた。

「……41℃だって」
「マジで?すげー、こんな熱出したの初めてかも」

いつにも増してりんの表情は厳しいものになっている。俺がこんなインフルエンザ如きで弱ってだらしがなくて怒っているんだろうか。

< 21 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop