今、ここであなたに誓わせて
そんな朝からちょっとしたハプニングに見舞われ、いつもより遅い出勤になってしまった。息を弾ませながら職場に現れた俺に、社長が声をかけてくる。
「この時間に出勤するの珍しいな」
「あ、すいません。ちょっと色々あって」
「謝んなって。いつも早いだけで朝礼までまだ余裕あるんだし。何かあったのか?」
「あーちょっと、りんが……」
「まぁお前が遅れるなんて、理由はりんちゃん絡みだよな。喧嘩でもしたのか?」
「いやー、ちょっと」
「なんだ具合でも悪いのか」
「いや大丈夫です、本当どっか悪いとかじゃなくて。……えっと生理が来たのにちょっとびっくりしたみたいで」
「そうか生理か、もうそんな年になるんだなー。あんな小さかったのに、俺らも年とる訳だ」
自分の娘のように喜んでいくれる社長。こんなに顔をほころばせて笑う姿を見るのは久しぶりじゃないだろうか。それを聞いていた周りの先輩や同僚達も、おめでとうと祝福してくれた。
いつも通り現場仕事を終えくたくたになって工務店に帰って来た頃、そこには学校帰りであるだろうランドセルを背負ったりんの姿があった。
「あれ、どうしたりん」
そう声をかけるとりんが口を開くより先に亜弓ちゃんが答えた。
「私が呼んだの」
工務店を通って家の中に入っていくところを、現場が終わってたまたま居合わせた同僚達がりんに声をかける。
「あ、りんちゃん、おめでとう」
「おめでとう。大人の階段を一歩登ったね」
そうやって本人達は良かれと思って声をかけるが、りんは苦笑い。そんな次々と声をかける男達を鬼の形相で睨み付ける亜弓ちゃん。
「……黙って」
思わず、睨み付けられた方からひっと変な声が上がった。りんはというとそそくさと家の中へ入って行ってしまう。
「な、なんで?」
「最悪、馬鹿じゃないの。なんでそんなにデリカシーないのよ、本当信じられない。死ねばいいのに」
「そ、そこまで言わなくてもいいだろっ」
「あのねなんでただの顔見知り程度の、しかもこんな粗野な男達にお祝いされなきゃいけないのよ」
ゴミ屑を見るような目を向けてくる亜弓ちゃんに、しょんぼりする同僚達。
「顔見知り程度なんて言うなよ、皆りんが小さい頃から世話してくれた家族みたいなもんだろ」
「本当ひでぇ言いようだよ。俺なんか、さっきコンビニでケーキ買ってきたのに」
「俺、プリン」