今、ここであなたに誓わせて
「お願いだから変に声かけたりしないでそっとしておいて」
亜弓ちゃんは吐き捨てるようにそう言うと、そのままりんを追いかけて家の中へ入って行ってしまった。
「あーあ、せっかく買ってきたのに」
「そういうことなら、篤司にやるか」
「そうだな」
ほらよ、とどこか投げやりに二人からケーキとプリンを渡される。
「なんか扱い雑だな。でも、まぁありがとう」
「嬉しそうだなー」
「そりゃあ、一つの節目というか。成長の証みたいなものだろ。嬉しいに決まってる」
今日は一日中気分が浮ついていて気を抜くといつの間にかニヤついてるような感じだった。それ位りんの成長が嬉しかったのだが、りんにはそんな俺の気持ちも通じず祝いたくても祝えない。やっぱり生理とは気恥ずかしいものであって、当人からしてみては人に祝われたいものではないのだろう。知らないふりをしてやるのが一番適切な対応なのだ。分かってはいてももどかしい。
「そうだ、りんちゃんを祝えない分今日はお前を祝ってやろう。何が欲しい?」
「じゃあ、ファムチキとコーラ。あとタバコ」
「しょうがねぇな、ちょっと待ってろ」
そう言って近くのコンビニに買いに行ってくれた二人。その二人と入れ違いで社長がやって来た。
「篤司、今日はうちで食ってくだろ。母ちゃんに赤飯炊くように言っとくからさ」
「いや、本人は大げさにしたくないみたいなんで。今日は連れて帰ります」
「そっか、そうだよな。亜弓の時も嬉しくて色々やったけど、当の本人はその日口もきいてくれなかったし。年頃の女の子は皆そういうものか」
はい、とあからさまに肩を落とす俺。
「でも祝いたいって思っちまうよな」
「そうですね。誕生日もそうだけど、今日はまた特別な日になりますから。でもそれよりも、来月ビッグイベントがあるからそれまでは絶対に喧嘩しないようにしなきゃいけないんです。ここで機嫌損ねる訳にはいかないんで」
「あぁ、運動会だっけか?日にち決まったら早めに教えろよ、その日は皆で見に行かないと」
「はい、でも今年は来ないでって言われるんじゃないかって心配で」
「なんで?」
「この間の授業参観、恥ずかしいから来ないでって言われて。今までそんなこと一度も言ったことなかったのに」
そんな俺達の話を聞いていた先輩が会話に割って入って来た。
「でも結局変な変装して行ってたじゃん」
「そりゃあ、なんとしてでも行くに決まってるじゃないすか」
りんのイベントごとには欠かさず出席してきた。そして学芸会や鼓笛パレードやら色んなイベントがあったが、その中でも運動会だけは特別なのだ。