今、ここであなたに誓わせて

「で、ここで生理って。更に多感になりますよね?それで来月の運動会来ないでとか言われた日には俺もうどうしたらいいか……」

がくっと項垂れる俺に、コンビニから帰って来た二人が机にビニール袋を置いて心配そうに尋ねる。

「なんだよ、せっかくご所望のもの買ってきてやったのに、そんな世界の終わりみたいな顔して」
「そうだよ、そんな心配してるりんちゃん以上にナイーブになってどうすんだよ」

そう先輩に肩を叩いて励まされるも、心配せずにはいられなかった。生理がきたことは単純に嬉しかったが、それを発端にりんとの仲がぎこちなくなるのは、この運動会前という大事な時期において必ずしも避けなければならない。

その後りんの方も亜弓ちゃんと買い物に行っていたようで、ビニール袋をぶらさげて帰って来た。俺の方もケーキとプリンと、ファムチキとコーラが入ったビニール袋二つ持って、りんと一緒に家へ帰る。

生理についてはあまり触れない方が良いのであろう、直感的にそう判断した俺はいつもと同じようにごく自然に接するよう努めた。

「りん、今日ファムチキもらったんだけど食べるか?」
「食べない」
「け、ケーキは?」
「食べない」

無表情でそう答えるりん。いつも以上に全く感情が読めない。俺の考え過ぎなのかもしれないけれど、一言おめでとうと言うのも躊躇われるこの重い雰囲気。そのまま二人で食卓を囲んで、りんは足早に自分の部屋へ籠ってしまった。

夜中、自室のテレビでりんに気付かれないようイヤホンをしながら昔のりんが映ったビデオを見る。一人で見ると怒られるから、見るときはいつもこっそり見ているのだ。まだ当時ビデオカセットだった時代のものもDVDへダビングしてそれはそれは大事に保管している。幼稚園から今までの撮りためた映像や写真達は墓場まで持っていきたい俺の宝物だ。

幼稚園時代のお遊戯会では眠れる森の美女で7人いる中の1人の妖精役をやり、噛まずにセリフを言えたりんに感動のあまり途中から俺の鼻水と嗚咽がしっかり録音されてしまうという失態をしでかした思い出深い一作目。二作目は小学校低学年の頃の学芸会でやったリコーダー、そして三作目は中学年から参加し始めた鼓笛隊のパレード、ちなみにここでもリコーダーだった。
いつかリコーダーが好きなのかと聞いたところ、『得意、不得意もあるけどそれ以前に私には自分の役回りというものがある、リコーダーは私にとって適材適所』というなんとも意味深な答えが返って来た。そんな凜花も運動会だけは楽しみにしていたようで毎年濃紺のバッヂばかりを右腕に付けては、満面の笑みでこちらに手を振っている姿が多い。

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