今、ここであなたに誓わせて


今年は先輩から最新のビデオカメラを貸してくれることになっている。正直、この頃は自分のことなんて本当どうでも良くて、自分の生活の全てがりん中心で回っていた。亜弓ちゃんからよく、これだからシスコンはと言ってからかわれたりもしたけど。

だけど、両親と祖父母が突然いなくなって、俺一人取り残されていたらこんな気持ちになることはなかった。全てはりんがいてくれたから。夜な夜な昔のビデオを見てこんな温かい気持ちになれるのは、全てりんがいてくれたから。

涙腺を緩ませながら無償の愛情を注げる相手がいるということは本当に幸せなことなんだとしみじみ思った。
 
 

◇ ◇ ◇
 


運動会だけは好きだったのに。小学校最後の運動会でまさかリレーに出れないなんて。ショックだったけど、それ以上に出られない理由を知った時の方がショックだった。

それなのにお兄ちゃんは人の気も知らずに運動会の話をする。事情を知らないからしょうがないんだけど、そんなに楽しみそうにされてもって感じ。リレーに出られないと聞いたらお兄ちゃんもショックを受けるだろうか。そしたら私は平気そうな顔をしなくてはならない。
私が悲しむとそれ以上にお兄ちゃんが悲しむから。

そんな時、なんとなしにリレーのことを聞かれ平静を装ってなんでもないように答えた。

「りん、運動会さ今年もリレー走るんだろ?」
「走らないよ」
「なんで?」
「毎年私が走ってるから今年は違う子が走るの」

……ほら、またそんな顔する。一番ショックを受けているのは私のはずなのに、なんでお兄ちゃんがそんな傷ついた顔するの。



『うちの地区にさ新しく引っ越してきた転校生いるじゃん、そこの子どもが走るらしいよ。そこの母親がまた気の強い人みたいで、親がいないのに毎年リレー走らせてるのはおかしいって先生に言ったらしい』
『それって遠回しにりんかちゃんのことだよね?』
『てか絶対そうだよね。この間のマラソン大会の選手宣誓もさ、最初から決まってたかのようにその子だったよね』
『ねぇ噂だけど鼓笛隊のパレードの総指揮もその子に代わるらしいよ』
『嘘でしょ?なんか推され過ぎじゃない?何この転校生贔屓。絶対あの母親、先生に圧力かけてるよね』
『でもさ、地区対抗リレーなんて単純に地区から一番早い子が走って競うのに、そこに一人遅い子が走らされるのって何の罰ゲームって感じじゃない?』

やばー、と高らかに笑う女の子達。そんな女子トイレで聞いた下世話な噂。隣のクラスに今年から転校してきたその大人しいその子は小百合と言って、来た日から母親共々噂の絶えない子だった。
ちらっと隣のクラスに見に行ったことがあったけど、休み時間はいつも教室や図書室で本を読んでいるような大人しそうな子だった。眼鏡をかけて三つ編みをして、まるで日曜の18時にやってる国民的アニメに出てきそうなタ〇ちゃんみたいな。



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