今、ここであなたに誓わせて

妹はこいつときっと幸せになれる。いや幸せになってもらわないと困る。誰よりも。誰よりも一番。披露宴会場で最も遠い場所にいる新婦席を見つめた。

今でこそ笑っているものの、彼女の人生は物心ついた頃から波乱づくめだった。突如始まった俺と妹の二人の生活は、最初から何もかもが欠けていて何もかもが足りなくて。それをどうやって補っていこうか、妹に何とか人並の生活を、わずかでも人並の幸せをと願ってがむしゃらに働いて、そして多感な頃の妹と真正面から向き合いぶつかった。思えば長かった、彼女だけを想ってひたすら駆け抜けたような日々だった。

その甲斐あってか彼女はどこに出しても恥ずかしくない大人の女性へと成長した。今はこうして彼の隣で笑っている。その姿を見て改めて安心した。もう彼女は大丈夫だ、もう俺がいなくても。仕事へ行く度に、お兄ちゃん、お兄ちゃんと泣いて縋っていた泣き虫で甘えん坊な妹はもうどこにもいない。

つつがなく式は進み、終盤に差し掛かったところで最後の挨拶へとマイクの前へ立つ。

俺の役目もこれが本当に最後。
この紙一枚分の文章を読み終えたら終わってしまう。

さようなら、どうか俺の手を離れて行っても幸せに。どうか、どうか誰よりも幸せに。
いつまでも、俺の手の届かないところでも。

すでに涙ぐんできているところで声が震えないよう奮い立たせようと咳払いをした。


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