今、ここであなたに誓わせて
その後、亜弓さんが帰って兄がお風呂に入って、一人になったところでトイレへ駆け込んだ。受け付けないというようにお腹の中でさっき食べたものが暴れているのだった。せっかく、亜弓さんが作ってくれたのだ、お腹を擦ってみてもどうにもならず、苦しくてどうしようもなくなり最終手段に出る。喉奥に指を入れ暴れていたものを吐き出した。すると途端に胸がすっきりした。と、同時に涙が溢れてきた。
せっかく自分のために作ってくれた料理を吐き出してしまった罪悪感と、自分の体自体がまるで亜弓さんを受け付けないと拒絶しているように感じてしまったから。
亜弓さんは兄には勿体ない位しっかりした人なのに。彼女に不満なんて一切ないのだ。ただ自分に彼女を受け入れる準備ができていないだけで。
私は何食わぬ顔でリビングに戻りキッチンで口の中をゆすいだ。それから夜は亜弓さんがわざわざ家に来て夕ご飯を作ってくれるようになったのだが、私の胃袋はそれを拒絶し続け、毎回もどしてしまっていた。
給食もまともに食べれず、次第に水さえ嘔気を誘発されるようになり、そんな生活を送りながらまともに部活をやっていたら当然のようにぶっ倒れた。
目を覚ますと、保健室のベッドに寝かされていて時計は18時を回っていた。未だに意識が朦朧とするような気もするが、自分の体なんて今はどうだって良い。兄に連絡がいっていないかということだけが気がかりで跳ね起きる。
「すいません、先生、もう私帰れますので」
「あぁ、良かった起きた。待って今、お兄さんが迎えに来てくれるから」
その言葉を聞いて絶望感でいっぱいになる。すぐさま逃げるようにして帰りたいがそうもいかない。私が倒れたなんて聞いたらあの兄のことだ、死ぬ程心配するに決まってる。
「夜ちゃんと眠れてる?食事はちゃんと食べてる?無理なダイエットとかしてない?」
先生が優しく色々気にかけてくれるが、今はそれどころではない。
「すいません、疲れがたまっていただけで。全然大丈夫なので。兄にも迎えはいらないと自分から伝えますので。ご迷惑おかけしてすいませんでした」
急いで保健室を後にしようとしたところで運悪く兄と出くわしてしまった。
「あぁ良かった、元気そうだな」
「あ、お兄ちゃん」
「倒れたっていうから急いで来たけど、大丈夫か?」
「うん大丈夫、多分疲れてたみたい」
ほっと胸をなで下ろす。あの兄のことだからしつこく詮索してくると思ったけど、これ以上何も聞いてこなさそうだ。