今、ここであなたに誓わせて
それともう一つ大きな悩みがあった。今まで料理なんかまともにしたことがなかったために、りんに何を食べさせていいのか分からないのだ。とりあえず、毎日炊飯器に白飯を焚いてそこに納豆なり卵をかけて出したがなかなか食は進まず、鮭フレークとごはんですよをかけるようになってからやっと子ども用のお茶碗一杯分食べれるようになった。だけど毎回同じものを出していれば、当然飽きて手をつけなくなり、結局仕事終わりにコンビニ弁当を買って帰るようになった。そこでもから揚げ弁当は美味しそうに食べるのに、幕ノ内弁当ともなると卵焼きとご飯を一口、二口程度しか食れなくなってしまう。
「りん、これじゃ夜お腹すくぞ」
「おいしくない」
「ごぼうさんは?」
「べっ」
箸できんぴらごぼうを口元まで持っていくと、心底嫌そうな顔をして舌を出される。そんな些細なことでもイラっとするようになってしまった。何よりも大事で可愛い妹が、時々すごく憎たらしく感じてしまう。前だったらしょうがないなで済んでいたところを、どうしてこんなに腹立たしく感じてしまうのか。
「おむれつたべたい、チーズはいったやつ」
「おかしゃんのごはんたべたい」
ボソボソ言う妹に何も返さず、ただ黙々と妹の残した弁当を食べる。俺だってお母さんが作った料理を食べたいし、作れるものなら作ってやりたい。
「おかしゃん……」
本格的に泣き始めそうになったところで慌てて妹を抱き寄せるが、イヤイヤと突っぱねられた。
「やだぁ、おかしゃんがいい、おにいしゃん、きらい……っ」
「ごめん、ごめん、泣かないで。兄ちゃんも作れるようになるから」
また公園で朝を迎えるのだけは勘弁して欲しい。必死で慰めに入った。
「やだぁ、おかしゃんがいいーっ」
「ごめんな、お兄ちゃんで我慢して、な」
「いやだー、おかしゃーんっ」
「ごめん、ごめん、お願いだから泣かないで」
泣き喚く妹に、隣の部屋からドンと壁を叩かれた。もう俺の方が泣きたい。所詮無理だったんだ。こんな生活長くは続けられない、そうと分かっているなら早く助けを求めた方がいい。こんなギリギリの生活もう限界だ。たとえ妹と離れて暮らすことになっても、これじゃお互いの為に良くない。いつか共倒れしてしまう。
でも、どこに?どこに助けを求めればいい?
時計は20時過ぎになったところ、今日は何時間で戻って来れるか。俺は泣きそうになるのを必死にこらえながら、嫌がる妹を抱きかかえて壁の薄いアパートを呪いながら部屋を出た。