今、ここであなたに誓わせて
「明日からうちに連れて来い。家内が面倒みるって言ってる」
「え?いやそんな悪いです」
驚いて首を横に振ると、事務所から家の中へと繋がっている廊下をパタパタと駆け抜ける音が聞こえてきた。そちらへ皆の視線が向くと、そこの入り口の暖簾から社長の奥さんが顔を出した。丸い顔に笑い皺が刻まれた恰幅の良いおばちゃん。
「あぁ、篤司君、まだいた良かったっ」
「すいません、妹を迎えに行ってくれたみたいで」
「今日ねご飯食べて行って」
「いや、でも」
「りんちゃんと餃子作るって約束したの」
「え、なんで」
煮え切らない返事を繰り返す俺に、りんが俺のズボンの裾を掴んで満面の笑みで答えた。
「りんがね、ぎょうざたべたいっていったの」
「なんで勝手にそんなこと言うんだよっ」
思わずかっとなって怒鳴ってしまった。するとりんの顔がどんどん赤くなって、顔をしわくちゃにしかめて泣き始めた。
「なんで、おこるの……っ」
ひっく、ひっくと胸が大きく上下する。またサイレンのように泣き始めると思って、しーっと口元に手を持って行って口を塞ごうとすると、その小さな体はおばさんに抱き上げられた。
「ほら、りんちゃん餃子作りに行こう。お兄ちゃんも後から来るから、ね」
いつの間に懐いたのか、おばちゃんのふくよかな胸にひしと顔を埋めて抱き着いている。そう言って、家の中へ連れて行かれてしまった。
「これじゃ、子どもが子どもの世話をしてるようなもんだな」
「すいません、りんが我儘を言って。すぐ連れて帰りますから」
「どういう事情かは知らないが、もっと図太くならないとこの先やっていけないぞ。もう材料買ってちまったんだから食っていけ」
「……すいません」
りんの登場に唖然としている先輩たちに一礼して社長に促されるまま家に上げられる。畳の居間に通され、りんの姿を探すと台所に立つおばさんの足にくっついたまま離れないでいるところを見つけた。
「りん、ごめんね」
そう言って声をかけると、一瞬ちらっとこっちを見たがすぐに顔をおばちゃんの足に埋めて顔を隠してしまった。