~SPの彼に守られて~
 そして勤務先の角井百貨店が見えてきて、普通乗用車は社員通用口がある百貨店の裏側に回ると、普通乗用車が通用口近くに停車し、鷹野さんはスーツのポケットからスマホを取り出した。

「連絡先を交換するぞ」
「はい」

 私もバックからスマホを取り出して、赤外線通信で連絡先を交換した。

「鷹野さん…―、っと」

 私はスマホのアドレス帳の登録画面に視線を落とし、鷹野さんの名前を打ち込んで登録を完了させる。

「吉野千明……よし、名字じゃ堅苦しいから、今日からお前のことを千明と呼ぶ」
「えっ?!」
「俺はその方が呼びやすいから、そう呼ぶ」

 呼びやすいからって……、今まで苗字で呼ばれるのが殆どだし、急に下の名前で呼ばれるなんてちょっとむず痒い。

「何だよ。俺が鮫島みたく『千明ちゃん』って呼んだ方が良いのか?」
「『ちゃん付け』より、名前でお願いします」
「よし。千明、行くぞ」
「はい」

 鷹野さんが先に降りて助手席のドアを開けると、私はバックを持って降り、2人で社員通用口の所に向かうと白鳥さんがいた。

「現在、不審な点は無しです」
「分かった。こっちも移動中に後をついてくるような不審な車は無しだ。千明、また帰りにな」
「はい。鷹野さん、白鳥さん、警護をして頂いてありがとうございます。また仕事が終わる時間に連絡をします」

 鷹野さんと白鳥さんは業務の報告をし合い、私は百貨店の中へ入って社員が使うエレベーター前で立っていると、後ろから肩をポンッと叩かれたので振り返ったら、そこには角井百貨店の受付を長年担当している、"大野茜"(おおのあかね)先輩がいた。

「おはよう。ねぇ、吉野さんって彼氏がいるの?」
「えっ?私、彼氏なんていませんけど」
「うそ~。さっき見てたんだけど、あんなにかっこいい男性に送ってもらってたじゃない」

 あ―…、鷹野さんに車で送られた所を見られてたんだ。

 鷹野さんはSPで実は私は見知らぬ男たちに追いかけられて、鷹野さんたちに警護されてますって話しても信じて貰えないだろうな。

 だって鷹野さんは『護って欲しければ、惚れるな』って言っていたもの……、私と鷹野さんは依頼人とSPという立場なんだから、鷹野さんが彼氏になることはないよ。

 恋に落ちたら契約違反になるし……、 まただ、また胸が痛くなった。
< 26 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop