~SPの彼に守られて~
 普通乗用車が角井百貨店の近くにある駐車場に停まり、助手席から降りたら、鷹野さんは周囲を見渡して左耳にかけているインカムに手をかけた。

「スワン、そっち(社員通用口)の状況はどうだ?…―そうか、今からそっちに向かう。異常はないそうだから、俺たちも行くぞ」
「はい」

 今のところ朝は何も起こらないけれど、帰りにまた何か起こるのかもしれいと思うと、ちょっと憂鬱になっちゃう。

「そう溜め息つくなって言いたいが、しょうがないよな」
「すいません…」
「謝るな。俺たちが護るから心配しなくていいし、お前は仕事を頑張ってこい」
「はい。また帰りもお願いします」

 社員通用口で鷹野さんと別れ、エレベーターに乗り込んだ。

「鷹野さんがああやって気を遣っているのだから、せめて仕事は頑張ろうっと」

 エレベーターが7階に着いて経理課の部屋に入ると、早速パソコンを立ち上げて資料を必要とされる枚数を印刷し、先に会議室に入らせてもらった。

 机の上に印刷をした資料を置いて、次は給湯室に向かい、シンク下にある引き戸からやかんを取り出して、やかんに水を入れてコンロに乗せて点火して…、あっ、そうだ、お湯が沸くまでに湯呑みを棚から取り出さなくちゃ。

「よっと…」

 かかとをあげて棚の上の部分にある湯呑みを取ろうとするけれど、私の身長だと届きにくいなぁ。

「この湯呑みを取ればいいのかな?」

 私の手よりも先に湯呑みを取ったのは龍崎さんで、手に取った湯呑みを私に渡してくれた。

「ありがとうございます」
「吉野さんは今夜は予定が入っている?良かったら、食事でもどうかなと思っているんだけど」
「私とですか?」
「吉野さんに言っているんだから、そうだよ」

 龍崎さんは笑っているけれど、どうしよう…、追いかけられている男たちのことが解決をしていないし、それに鷹野さんに言っても誰かと食事をするなんて今の状況じゃ無理だと言われるよね。
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