~SPの彼に守られて~
「あの時(巨大観覧車で言った言葉)のこと、覚えていたのか」
「覚えていますよ。言葉だけじゃなくて、オデコにキスをしたり、好きだって言いたかったのに言わせてくれなかったのも覚えてますよ」

 恨めしそうに鷹野さんを見ると、鷹野さんは苦笑する。

「そんな顔をするな。俺たちSPは"超えてはいけないライン"があって、あまり距離が近づきすぎると命を落とすことだってある。俺の親父とお袋がそうだったんだ」
「えっ…」

 鷹野さんからの突然の言葉に驚く。

「前に、SPになった理由は敵を取るためだと言ったのは覚えているか?」
「覚えています」
「俺の親父は警視庁の警備局に勤めていて、その時は要人を警護するSPだったんだ。経済界で有名な大臣を警護することになった親父は、その大臣と共にある組織に連れさらわれてしまった」
「その組織って、龍崎さんやレオがいる組織のことですか?」
「ああ、そうだ。莫大な身代金を得ようと企んだレオは、(身代金を)持ってくるのはそれぞれの大切な人がくるようにと言ったんだ。そして―…」

 鷹野さんは話を続けようとするけれど、その時のことを思い出したのか俯きながら下唇を噛む。

 話の流れでその続きの大体の想像がつくから、これ以上言わなくてもいいよという気持ちを伝えるために鷹野さんを抱きしめると、鷹野さんも右手を私の背中にまわした。

「だから千明が観覧車の中で言いそうになったのを止めて、お袋のようになって欲しくないからあの言葉を言ったんだ」

 鷹野さんは私の肩に自分の頭を寄せると、私の背中に回している右手も力が込められているのが分かる。

 そっか、観覧車の中で言ったあの言葉はそういう意味が込められていて、あの切ない表情もその理由だったんだ。

 鷹野さんが私の警護を申し出たのも、龍崎さんにレオの居場所を執拗に聞いていたのもご両親のことが関係していたんだ。
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