ふりむいてよキャプテン
小野くんと上手くいくことは絶対にないだろうけど、上手くいきそうになったらそっちいく、なんてそんな都合のいいことできるわけない。

にっしーがどんな気持ちでそれをいったかと思うと、また胸が苦しくて。



「もう少し......、考えるね」



何を考えるのかは分からなかったけど、にっしーをきっぱり切ることはできなくて、はっきりとした答えを先伸ばしにした。

曖昧に笑ったにっしーの手を自分からにぎって、ごめんねと謝る。



「いいよ、気にしなくていい。
俺、これだけでうれしいから」



これ、とにっしーはつないだ手を少し上にあげる。


......にっしーのことが嫌なわけじゃない。
一緒にいて楽しいし、むしろ好き、だと思う。


でもね。
にっしーが私を好きでいてくれるように、
にっしーがほんの少しのことだけで嬉しくなるように、
他に好きな人がいても諦められないように。

私が同じようにそう思う人は、違う人なんだ......。



至近距離じゃないと表情も分からないほど真っ暗で物音ひとつさえしない境内のなか、一瞬だけ無言で目を合わせる。

それから遠慮がちに私を抱き寄せるにっしーに身をまかせ、ただ目をつぶり彼からのキスを受け入れた。
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