ふりむいてよキャプテン
「それ、渡さないの?

......なんかあった......?
なんで泣いてるの......?」


ごみ袋の口を縛ろうとしていると、水分補給に部室に戻ってきたにっしーに、袋の中のガトーショコラを指され。

それからにっしーは私の顔を見て、固まった。


にっしーに言われ顔に手をやると、初めて自分が涙を流していることに気づく。

なんで泣いてるんだろ、いくらショックなことがあったからといって部活中に泣いてちゃだめだ。


「なんもないよ?これは目にごみが入っちゃって。
渡そうと思ったんだけどねー、味がイマイチだったからやっぱり捨てようと思ってさ」


ごしごしと手で目元を乱暴にぬぐって、誰がどう聞いても嘘だとわかる言い訳をして、無理矢理笑顔を作る。


言い訳しなくても、可愛くラッピングされた見るからに本命のチョコがごみ袋に捨てられているこの状況。

私が誰に渡したかったのか、そしてなにかがあって渡せなかったこと、にっしーには分かっちゃうよね......。


明らかにおかしい私ににっしーは無言で近づくと、ごみ袋の中をあさった。


「って、にっしーなにしてるのっ!?
それ、ごみだから汚いよ?」

「捨てるくらいなら、これ、俺がもらってもいい?」


ごみ袋から取り出したボロボロのガトーショコラのほこりをはたいて、真剣な目をするにっしーに一瞬返答に困る。

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