ふりむいてよキャプテン
......っと、......やば。

またさほちゃんたちのこと考えてたら、さっきまでワンアウトだったのにいつのまにか交代になっちゃってる。


五回の裏の後の少し長めの休憩、グラウンド整備中に、審判にお茶だしをするしずかちゃんを見て、それから空白のスコアブックを見て頭を抱える。

これじゃ......さほちゃんたちのこと言えないな......。


「マネージャー、お茶のむ?」

「いつき先輩、すみません。
ありがとうございます」


空白のスコアブックをどう埋めようか考えていると、目尻を下げたいつき先輩が机の上に紙コップを置いた。

その紙コップに入ったお茶を飲み干していると、いつき先輩がペンをとりスコアブックになにやら書き込んでいる。先生にバレないよう、私の裏側で。


「いつき先輩......あの......」

「今日、あついよね。一球も目が離せないからスコア書くのも大変でしょ」


スコアブックに目をやると、空白の部分がいつき先輩の字で埋まっている。

それから、いつものように目尻を下げて微笑んで、私が試合を見逃したことも、スコアを書いていなかったことにも、いつき先輩はなにひとつ触れずにベンチに戻っていった。


......いつき先輩。

なんとなくいつき先輩を目で追うと、彼は何事もなかったかのように他の三年生の先輩と笑顔で話している。

ああ、もう......キャプテンにまで気を使わせて、なにやってるんだろう私。


気を使わせてしまったことが申し訳なくて、自分が情けなくて、だけどそのさりげない優しさが嬉しすぎて。

思わず浮かんだ涙をそっとぬぐった。


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