ふりむいてよキャプテン
その時、たぶん私たちも、相手側も、三塁ベースにしっかり足をつけているにっしーのことが意識から薄れていたのかもしれない。


「走った!」


ピッチャーがふたつめのストライクを投げた瞬間、ついに二塁に盗塁したいつき先輩。

相手校のベンチの声よりも早く、キャッチャーが立ち上がり二塁に送球。


けれどそれと同時に、今まで棒立ちで盗塁する素振りを見せていなかった三塁のにっしーがスタートを切っていた。


「......っ!バックホーム!」


ショートがタッチするよりもいつき先輩が滑り込む方が早く、二塁はセーフ。

ショートがすばやくキャッチャーにボールを返すけど......。


にっしーは、ボールを持ったキャッチャーのガードをすり抜け、足からすべりこむ。


「セーフセーフ!」


一呼吸おいた後、主審は大きく手を横に広げた。


......ホームスチールだ!


めったにでないホームスチールの成功と今日初めての得点に、一気に湧く一塁側ベンチと応援席。

無言でうつむいていたヒロくんまでもが、立ち上がってベンチの前に出てきた。




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