【完】幸せをくれたあなたに。
「よかった……。こんなとこにいた」
そう言う松井くんだけれど、松井くんの姿が見えない。
まるで、形だけが残ったシルエットのように……。
でも、そのシルエットはだんだんと近づいてくる。
松井くんだとわかっているけれど、近づいてくる度、少し怖い。
目の前で止まった松井くん。
少しずつ、手が伸びてきて……
──ぎゅっ
私を暖かく包み込んだ。
「え……?」
「……メガネどうしたの?……ていうか、また泣いてる」
「…………」
“また泣いてる”
気づいてくれた嬉しさなのか、よくわからないけれど、私の目からまた涙が零れ落ちた。
ああ、そういえば私、松井くんの前で泣くの2回目なんだ……。
「メガネなくしたの?」
言葉と同時に、抱きしめている腕の力が、ぎゅっと強まった。
「…………」
私は言葉を発しなかった。
その代わり、コクンと頷いた。
ほんとは、なくしてなんかない。
遥生くんに持って行かれただけだけど、もうそんなことどうでもよかった。
松井くんに抱きしめられていることに夢中だったから。