【完】幸せをくれたあなたに。
「そろそろ帰ろうよー」
「……うーん。そうだね。片付けも終わったみたいだし」
屋上の階段を下りてくると、近くの教室から女子2人の声がした。
こんなとこ見つかったらまた変な噂される。
そう思って小さく松井くんに「降ろして」と呟くと、素直に降ろしてくれた。
そして、近くの明るいライトのついた見えない位置の狭い場所に2人で隠れた。
早く行って……。
そう願うけれど、1人の女が口を開いた。
「そういえばさー」
「んー?」
「松井いるじゃん? 地味な」
──ドクン……
松井くんの名前が出てきて、反応してしまい、チラリと松井くんを見る。
だけど、相変わらず顔色1つ変えない。
私はそのまま、静かに耳を澄ました。
「あー、いるね」
「アイツさ、声かっこよかったじゃん?」
「わかるわかる。いつも顔見えないけど、結構顔かっこよかったりすんのかな」
「それだよそれ! ウチもそれ思ってさー。ありえるかもしんねーよ!?」
「メガネ外してみる……!?」
はしゃぎ出す女子2人。
でも、私はそれどころじゃなかった。
松井くんの素顔を見られたら……
なんて思うと嫌で嫌で。
心がモヤモヤして仕方がなかった。