この恋、きみ色に染めたなら
Prologue
『俺、あいつと別れるわ』
人気のない、寂しいはずの教室から聞こえてくる、その言葉。
その言葉が耳に入るなり、私の胸はドキッとした。
『比呂、それ…本気で言ってんの?』
声だけで、その持ち主が誰だか分かってしまったのに。
声の持ち主と話している、その甘い声を出す彼女は私に現実を叩き付ける。
『本当だよ?
だって、俺、あいつとはただの暇つぶしだもん。
本気なのは、今目の前に居る、由紀ちゃんだけ』
『じゃ…別れたら。
由紀と付き合ってくれる?』
『うん、てか、俺の彼女になって?』
『嬉しい!
由紀、こんなに嬉しいの初めて!
比呂が彼氏だなんて…幸せだな!』
彼と彼女は教室。
その教室と廊下を挟む、教室のドアの裏に私がいるなんて、この二人は気付いてもいないだろう。
まさか、比呂の彼女である、私が二人の会話を聞いてるなんて、予想もしていないだろう。
ね、私、ここにいるんだよ…?
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