この恋、きみ色に染めたなら
Prologue








『俺、あいつと別れるわ』



人気のない、寂しいはずの教室から聞こえてくる、その言葉。




その言葉が耳に入るなり、私の胸はドキッとした。








『比呂、それ…本気で言ってんの?』






声だけで、その持ち主が誰だか分かってしまったのに。



声の持ち主と話している、その甘い声を出す彼女は私に現実を叩き付ける。








『本当だよ?
 だって、俺、あいつとはただの暇つぶしだもん。
 本気なのは、今目の前に居る、由紀ちゃんだけ』







『じゃ…別れたら。
 由紀と付き合ってくれる?』







『うん、てか、俺の彼女になって?』








『嬉しい!
 由紀、こんなに嬉しいの初めて!
 比呂が彼氏だなんて…幸せだな!』








彼と彼女は教室。



その教室と廊下を挟む、教室のドアの裏に私がいるなんて、この二人は気付いてもいないだろう。




まさか、比呂の彼女である、私が二人の会話を聞いてるなんて、予想もしていないだろう。










ね、私、ここにいるんだよ…?










< 1 / 324 >

この作品をシェア

pagetop