この恋、きみ色に染めたなら
『入るわけ…ないじゃないですか!』
私は慌てて、先輩にそう言う。
だって、少しでも間を開けてしまったら、私は言ってしまいそうになる。
『先輩に言われたでしょ?
“美術準備室に入るな”って……。
約束破ったら先輩、絵を描かないっていった』
『お前、俺に描いてほしかったっけ?』
いつものように先輩に言葉を遮られ、でもその言葉が更に鼓動を速めていく…
『……最初は……こんな平凡な私になんでモデルの依頼なんかするんだろう…と思ってましたよ…?
で、でも先輩はコンクールとかでも賞を取ってるし…そういう人に描いてもらうっていうのも人生のいい想い出になるかなと思い直して……だから描いてもらうには、先輩の言うことをちゃんと聞かないとダメ…じゃないですか…』
言いながら、思わず泣きそうになる。
言いながら、先輩への想いを実感してしまう。
言いながら、先輩とのどんな時間でもいい、一分一秒でもいい、それでも先輩の傍にいたいと自分自身がどれだけ望んでいるのかに気付かされる。
でも、泣けないー…
泣いたら、本当は先輩の過去も想いもこの美術準備室で聞いてしまったことがバレてしまう気がして。
人に偽ると、その偽りを守り通すためにまた別の偽りを用意しなければいけないんだー…