この恋、きみ色に染めたなら




先輩はさっと片づけをし、美術準備室に入っていく。



先輩の姿が完全に美術準備室に入ってしまうと、途端に言いようのない不安に駆られる。





今、先輩は…



あの絵の人に会ってる…


あの絵の人を見つめてる…






先輩が美術準備室に入ってまだほんの少し、されど私にはとても長い時間に感じてしまう。








『…………先輩……』






私も部屋に入ってしまいたい…



入って、先輩の手を引いて、早くあの部屋から先輩を連れ出したい…













『紗希?』



いつの間にか床に視線を落としていた私。


先輩に呼ばれた気がして、私は顔を急いで上げた。








『………ごめん。
 俺が今日は描ける気がしない。

 もう少し片づけしたら帰るから、先に帰れ』





先輩は準備室から顔だけを出し、そう言うと、そのまま再び準備室に入ってしまった。









どうして先輩は欲しい言葉をくれないの?



どうして今すぐにその部屋から出てきてくれないの?






今、先輩がその部屋から出てきてくれたら。


今、“俺も帰るから、一緒に”って言ってくれたら。



そうしたら、私は絵の中の人に嫉妬しなくて済むのに…。









< 111 / 324 >

この作品をシェア

pagetop