この恋、きみ色に染めたなら
先輩はさっと片づけをし、美術準備室に入っていく。
先輩の姿が完全に美術準備室に入ってしまうと、途端に言いようのない不安に駆られる。
今、先輩は…
あの絵の人に会ってる…
あの絵の人を見つめてる…
先輩が美術準備室に入ってまだほんの少し、されど私にはとても長い時間に感じてしまう。
『…………先輩……』
私も部屋に入ってしまいたい…
入って、先輩の手を引いて、早くあの部屋から先輩を連れ出したい…
『紗希?』
いつの間にか床に視線を落としていた私。
先輩に呼ばれた気がして、私は顔を急いで上げた。
『………ごめん。
俺が今日は描ける気がしない。
もう少し片づけしたら帰るから、先に帰れ』
先輩は準備室から顔だけを出し、そう言うと、そのまま再び準備室に入ってしまった。
どうして先輩は欲しい言葉をくれないの?
どうして今すぐにその部屋から出てきてくれないの?
今、先輩がその部屋から出てきてくれたら。
今、“俺も帰るから、一緒に”って言ってくれたら。
そうしたら、私は絵の中の人に嫉妬しなくて済むのに…。