この恋、きみ色に染めたなら
何度も先輩を好きだから、自分を見て欲しいと思ってしまう自分自身を肯定したり、先輩が好きだから、先輩の気持ちを大事にしなきゃと思ったりを繰り返す。
とぼとぼ歩いていた私は自分自身に葛藤を抱きながらも、気がつけば昨日先輩に連れてきてもらったお店の前に立っていた。
お店のドアには“closed”というプレートが掛けられている。
近づいて見てみると今日が定休日であることが分かるようにドアのガラス部分に張り付けられていた。
『…お休みか……』
昨日、美味しいケーキをきちんと味わえなかったから、というのもあるけど。
ここの店主さんは先輩の事をよく知っていそうだったから。
先輩の想い人と先輩のことについて、なんでもいいから知ってることを聞かせて欲しかった。
先輩には忘れられない人がいる、
先輩には未だ尚、想い続けている人がいる、
それだけで十分なのかもしれない-…
けれど私は、
“もう肇はその子のこと、好きじゃないよ”と言われたかったのかもしれない-…
でも、今日は休み。
聞きたくても聞けない。
私は踵を返し、店を後にしようとした。
『あれ…』
不意にそんな声が聞こえ、私は顔を上げた。
『あ、やっぱり!
肇の絵のモデルをやってる子だ』
店主さんは私の方に軽やかな足取りで近付き、私の前で止まった。
『今日もケーキ、食べに来てくれたの?』
屈託のない顔で問い掛けかれ、私は思わず首を縦に振っていた。