この恋、きみ色に染めたなら
段々と顔が曇っていく店主さんに。どんな言葉で返すべきか戸惑う。
『あ…あの、すみません……。
思い出すのも辛い…ですよね…』
身内、ましてや姉妹を亡くすなんて経験がないから、こんなことしか言えない…。
『……思いだすのは辛い。
今でもあの日のことも、あの時運転していた人の顔も覚えてる。
けど、忘れられちゃうのって悲しいじゃない。
誰かが自分を思いだしてくれる、それって一番の供養になるんんじゃないかな、って私はそう思ってる』
店主さんはそう言って、その場で寂しそうに微笑む。
私はその笑みを見て、写真に写る妹さんに視線を変えた。
私と同い年の時に、事故で命を奪われた。
命、だけでなく、夢も希望も描いていたもの全ても奪われた。
けれど、未だ先輩に想われている…
生きていても先輩に振り向いてもらえないのと、
亡くなっても先輩にずっと想ってもらえるのと、
私はどっちを選択するだろう。
生きているからこそ、“亡くなっても先輩に想われているほうがいい”と答える。
『妹は紗季って言うの。
小さい頃から私か肇の後にしかついてこない子で、一緒にいると母性本能をくすぐられる子だった。
可愛くて、優しくて、本当に自慢の妹だったの。
でもいつしか紗季は肇の後ばかり追うようになった、私はそれを見て、肇のことが好きなんだってすぐに気付いたの。
肇もどんなに紗季に後をつけられても嫌がらなくて、いつも紗季を守ってくれてるように見えてね…漠然と二人は両想いなんだなって思ってた、けど二人とも気持ちを伝えあうことはなかった。
“幼馴染”だからお互いに色々と知りすぎてしまったのかな、そのままの関係がずっと続いて…。
あの事故の日、ようやく紗季が肇に気持ちを伝えようと決めた日だった…』
店主さんはそう言うとどこか遠いところを見つめる。
『あの日、紗季は肇に会いに行った…。
コンクール間近だった肇は、あの日、美術準備室に籠って絵を仕上げてた。
あと、あとほんの少しで学校だった、すぐ近くの交差点で居眠り運転をしていたあの運転手がいなければ……紗季は死ぬことなんてなかった……肇に想いを伝えることができた……』
店主さんの目から溢れる、大粒の涙ー…
店主さんの大粒の涙が伝染したのか、私の頬にも涙が伝っていく。