この恋、きみ色に染めたなら
『名前、なんて言うの?』
店主さんは柔らかく私を包み、そう問いかけてくる。
『……紗希…です』
『妹と同じ、紗希ちゃんか…』
『……ごめんなさい…』
『どうして紗希ちゃんが謝るの?』
『……先輩が紗季さんを思い出すように、店主さんも紗季さんを思い出しちゃうから…』
『私は確かに妹が亡くなった時と同じ年齢で、同じ名前の紗希ちゃんに妹を重ねたくなる気持ち、分かるけど。
紗季と紗希ちゃんは違うと思う』
店主さんの言葉に私は顔を上げる。
視線が合うと店主さんはニッコリ微笑んで…
『だって紗季はどんなに肇を想っても、気持ちを伝えることも触れることさえ出来ない。
けど紗希ちゃんは違うじゃない?
肇をもっと好きになることも出来る、肇と過ごす日々の中に新しい肇を見つけたり、思い出だって増やしていけるじゃない。
肇に触れることも、肇に触れてもらう事だって出来る。
あなたは生きてる、だから出来る事がいっぱいある。
紗季には出来ないこと、あなたは沢山出来るじゃない』