この恋、きみ色に染めたなら
『先輩は……ただ紗季さんのことを後悔していたり、紗季さんを忘れられなくて…ですよ、絶対……』
『違うよ、もし肇がまだ前を向けないなら、紗希ちゃんをこの店には連れてこないもの』
え?
先輩が前を向けないなら、私をこの店には連れてこない…?
私は店主さんの言葉に首を傾げ、店主さんを見つめる。
『紗季の一周忌の時、私が肇に言ったの。
肇はまだ17歳、いつまでも紗季のことを引きずるんじゃなくて、また新しい人を好きになりなさいって。
紗季のことを覚えているのは私たち家族だけでいい、肇は紗季の分まで幸せになってほしいって。
新しい人を見つけて、紗季と出来なかった幸せなこと、肇が見つけた、新しい人と沢山してほしい、そう言ったの。
肇は“紗季を忘れない、紗季が好き”と言ってくれた、けどね、亡くなった人は生きていく人の想い出にはなれるけど、一緒に歩むことは出来ない…。
亡くなった人は、今を生きる人の足枷になってはいけないんだって……そう、肇に言ったの。
もし紗季との日々を忘れさせてくれそうな人が出来たら、その時はこのお店にその子を連れてきてって、紗季にそう伝えてほしいって、そう約束させたの。
それでこの店に肇が連れてきたのは、あなたが初めて。
それがどういう意味か分かる?』
店主さんはニッコリと私に微笑む。
『肇はあなたのこと、特別に想ってるんじゃないかな…』
先輩が……
私を……?
そんなことない、
そんなことない。
けど、先輩、
私はとても単純な女みたいです。
店主さんの言葉に、
私は先輩に会いたくなりました。
先輩の特別、じゃなくてもいい。
先輩がまだ紗季さんを忘れられてなくてもいい。
それでも先輩が私をこのお店に連れてきてくれたこと、とても嬉しかったから…
私、先輩に会って、先輩に言いたい……
先輩、私、あなたのことが好きですー…