この恋、きみ色に染めたなら
今度は先輩が息を呑んだー…
『…は?何言ってんの?
俺に好きな奴なんていないけど。
てか、俺は恋とかしたことないって言ったじゃん?』
言いました。
先輩は確かにそう言いました。
自分の想いに、過去に、事実に、全てに嘘をついて、私にそう言いました。
『違う、先輩はこの部屋で過ごした紗季さんのことが好き…。
この部屋で何枚も…何枚も描いた、紗季さんのことが忘れられてない…。
だから…紗季さん以外の想いを受け取ることはできないから…だから好きな奴はいないって…恋なんてしたことないって…そう、嘘をついたんですよね…?』
まだ忘れられていなくて。
まだ紗季さんのことが好きで。
たまたま私の名前が紗希だったから、だから先輩は私を絵のモデルに選んだ。
忘れられない紗季さんと過ごした時間を、もう一度過ごすために…。
『俺は紗季なんて知らない…俺が知ってるのは、今目の前に居るお前しか知らない!』
先輩の言葉に私は先輩を横に無理矢理ずらした。
そして、入ってはいけない、そう言われた部屋の扉を引いた。
『紗希、お前何して…!』
先輩が私の手を引いて、私が部屋に入るのを止めようとする。
でも私も負けじと、右足をその部屋に踏み入れた。
『…先輩!
先輩がどんなに止めようとしても無駄です…!
私は……この部屋のキャンバスを…折りたたみ椅子に置いてあるバラ柄のクッションも見ました!』
その言葉に、先輩の力が緩んで…
私はその部屋に全身で入り込んだ。