この恋、きみ色に染めたなら
『そんなに紗希はモデルを辞めたい訳?
この部屋に入って、俺の過去を詮索して、俺の事詮索するなとも最初に言ったはず、なのに』
『……好きだから!』
『…先輩のこと、好きになっちゃったから……。
好きな人のこと、知りたいって思っちゃダメ…?
好きな人に好きな人がいる、それを知ってしまったら…どんな人が好きで、どんな恋をしてたかとか…気になるのもダメですか…?』
先輩の言葉を遮るかのように、“好き”と口にした。
そうしたら、思ってることが次から次へと口から出ていく。
『……絵のモデルは辞めたくない…!
例え……紗季さんを思い出す為の時間だとしても……私は先輩と一緒に居る時間が本当に大切だし…幸せだから……。
だから…絵のモデルはこのまま続けさせてください!』
私は言い終わる前に、頭を深々と下げ、先輩にお願いをする。
『……何、言ってんの…?
どんだけ人が出した条件を破るつもりなの?
人の出した条件破って、過去を詮索して、部屋には入って、俺を好き…?
お前なんかモデルの件は白紙だよ…!』
先輩の言葉に私は顔を上げると、先輩は私とは違う方向に体を向け、肩で息をしているようだった。
『……モデル、失格ですか……。
私が紗季さんじゃないから…?』
『お前は紗季と同じ名前だよ。
けどお前は紗季じゃない…。
俺が望んでる紗季なんかじゃない…!
紗季は……紗季はもう二度とここには来ないんだから…!』
そう言った先輩は、部屋にあるキャンバスの所まで歩み寄り、その絵を掴み、そして壁に向かって投げた。
ーードンッ
鈍い音と共に床に落ちていく、先輩が描いた紗季さんの絵……
『……分かってるよ……。
分かってんだよ…どんなに紗季を想っても…紗季の代わりを見つけても……この想いだけは俺の心から消えたりしない…。
どうしていいか分かんないんだよ……。
お前は紗季じゃない、頭では分かってる……けど、想うだけじゃダメなんだ……紗季がいないと……俺は紗季がいないと…』
『いいよ、先輩、その先は言わなくて…』
私はいつになく弱気な先輩に近寄り、そっと先輩を背後から抱きしめた。