この恋、きみ色に染めたなら




紗季さんになりきれていない私。



ただ先輩を好きだと言って困らせるだけの存在。





もう絵は描き終えた、つまり明日からここにくる必要はない…。












『………描き終わっちゃいましたね……』








本当に必要ない、そうしたら私はどんな名目で先輩に会いにくればいいんだろう…





言いようのない不安と、言いようのない寂しさが私の心に広がっていく。








“そんなことない”とか“明日もくれば”とか。



きっと本物の紗季さんにだったら先輩は言う…。



けど私には、そんなこと言ってくれないだろう…。









『明日さ…』





先輩がこちらを振り向かず、背を向けたままの状態で話しかけてくる。





先輩の言葉が“明日から”じゃななかったこと、ただそれだけのことでホッとしている私はどれだけ先輩の言葉を不安に思っているのだろう…。











『明日、なんですか?』




『今までのお礼に、今度こそケーキ、ご馳走してやる。

 だから、明日も美術室に来い』





なんて言い方なんだろう…


“やる”とか“来い”とか…


けど、明日も先輩に会いに来る理由が出来た。








『……ありがとうございます』




そんなことが、


それだけのことが、


こんなにも嬉しいって、私は本当に馬鹿すぎる…



馬鹿すぎるくらい、先輩の事ー…







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