この恋、きみ色に染めたなら






『なんで紗希は、紗季の代わりを演じようとすんの?

 なんで紗希は紗希のままで挑もうとしないわけ?』







先輩の鋭い視線に、鋭い質問ー…







なんで紗季の代わりを演じようとするのか、

なんで私は私のままで先輩に挑まないのか。



なんて愚問ー…











『…先輩の好きな人は……もういないから………。

 私は漢字は違えど同じ名前だし…重ねることで先輩の悲しさとか寂しさとかぶつけられるか』



『紗希で?…てか紗希に?』



最後の辺り、被せるように先輩はそう言った。












『好きな女の区別くらい、ちゃんとついてる。

 それ以外の女に好きな女を重ねることなんてできねぇーよ』







先輩の言葉に“ごもっともです”と心の中で答える。




そんなの、そんなの…分かってるけど…。












『お前、俺のことが好きだって言ったよな?

 なら、なんでお前自身で俺にぶつかってこねぇーの?

 紗季の代わりになんかなれない奴に、紗季の代わりになるなんて言われて、俺が本気で喜ぶとか思ってんの?

 俺のことが好きなら、逃げんなよ、誤魔化すなよ。
 
 ちゃんとお前の意志で、お前っていう人間でぶつかって来いよ?

 そしたら……』









『…そしたら……?』








『紗希に落ちるかもしれねぇーよ?』








クスっ、また、そんな笑いが聞こえたような気がしたー…







“紗希に落ちるかもしれねぇーよ”とか…


冗談でも、嘘でも、そんなん言われたら…


誰だって、“落ちてよ”って望んじゃうよ。


誰だって“自分自身でぶつかろう”って思っちゃうよ。









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