この恋、きみ色に染めたなら
『ヒロの時は、ヒロも紗希ちゃんに夢中だったから手を引いたけど。
今回は紗希ちゃんの片想い、それなら俺にもチャンスがあるでしょ』
今となってはヒロの想いが本物だったのか疑わしいけれど…。
凪にも山科先輩のことは聞いたことあるけど……。
凪に聞くのと、本人から聞くのとでは全然違う…。
『俺が紗希ちゃんのことを好きだっていうことは覚えててね。
あ、ほら先輩が待ってるみたいだから、行ってあげた方がいいよ』
いやいや…普通に予期せぬ告白ほど意識しちゃうものはないよ……
でも覚えるも覚えないも、私が好きなのは成田先輩だもん。
『じゃ、またね、紗希ちゃん』
山科先輩は手のひらをヒラヒラと揺らし、他の部員の人と一緒に行ってしまった。
取り残された私、スタッフの人も困った顔で私を見つめているのに気が付き、私は慌てて飲みものやポップコーンを乗せているトレーを引き、持ち上げて歩き始めた。
辺りをキョロキョロ見渡しながら、先輩の居場所を探す。
『あ、いた……』
先輩は既に上映会場の入り口の近くにいて、その壁に寄りかかりこちらを見ていた。
やばい……
また“トロい”とか怒られる……
私は飲みものやポップコーンが落ちないように慎重に、でもなるべく早く足を動かし、先輩の元へと歩み寄った。